アロマティック
 永遠は全てをいわせる前に、みのりの手を引いて腕のなかに引き寄せた。

「ちょっと!? やめっ……んっ――」

 胸に手をついて抵抗するみのりの顎をすくいあげ、永遠は身をかがめて唇を奪った。

 長身の逞しい体に包まれ、キスされたみのりはそのぬくもりに一瞬我を忘れた。
 重なる唇の温かさ、柔らかさに、抵抗していた力が体から抜ける。押し付けられた唇が僅かに離れた。甘い吐息が顔にかかる。

「口、開けろよ」

 胸をくすぐる永遠の興奮に掠れた声。みぞおちのあたりが熱くざわめく。促されるまま口を開こうとして、目が覚めた。
 わたし、なにやってるの!?
 熱い情熱が熱い怒りに変わる。拳を握りしめ、永遠に殴りかかる。が、その腕は楽々と捕らえられてしまった。利き手がだめなら反対の腕がある。しかし、先を読まれたのか、行動に移る前に左手も封じられてしまった。顔の横に両手を押し付けられて、身動きが取れなくなったみのりは最後の手段。蹴りを食らわした。

「うっ」

 その足が永遠の脛に命中した。激痛に、みのりを掴んでいる手の力が緩む。

「ばか!」

 両手が自由になると、人目もはばからず、みのりはその場から逃げ出した。
 こんなことになるならアイツの心配なんかするんじゃなかった。
 なんで、キスなんか……。
< 31 / 318 >

この作品をシェア

pagetop