アロマティック
 理花は暗くなりつつある雰囲気に首を傾げた。
 居酒屋に入ってきて、乾杯したときはまだ皆、わちゃわちゃしてた。それが、永遠がいなくなった辺りから皆の口数がだんだん減ってきて、周りからはお酒が入って陽気な声があちこちから聞こえてくるのに、このテーブルはまるでお通夜のよう。

「皆、どうしたの~?」

「なんか。切ない……」

「んん?」

 理花のとなりに座る空の呟きは、口元に頭を寄せないと聞こえないくらいの小さな声だった。
 切ない?
 どういうことなの?
 頭にクエスチョンマークが浮かぶ理花の前で、皆が重いため息をついた。このため息、何回目?

「ちょっと~なんでアイドルがそんな顔してるの~? まるで失恋したみた――」

 そこで理花はハッとした。

「もしかして皆、みのりちゃんが好きだったなんていわないよねぇ?」

「はぁ……みのりちゃん」

 聖が苦し気に名を呼んでいる。

「もしも~し! 聖ちゃん?」

 目の前に座る聖の顔の前で手を振ってみせるも、上の空。

「いまごろ、みのりちゃんと永遠は……」

 聖のとなりでは、珍しいくらい朝陽がいじけている。

「彼女には幸せになってほしい。でも、幸せにする相手は自分でありたかったと、皆思って感傷に浸ってるんで、しばらく放っておいてください」

 空とは反対側のとなりに座った天音は、ちびちび日本酒を飲みながら、自分の世界へ入っていく。
 信じられないけれど、皆、本当にみのりちゃんのことが好きだったらしい。
 明日、空港に見送る会だったはずが、いつの間にか、大失恋会みたくなっている。
 なんだかんだ、皆に愛されてみのりは幸せだったんじゃない。
 嬉しいと同時に、ちょっと羨ましかった。
 だから、ちょっとくらいいいよね?

「もぉっ! 皆、お店出るわよっ私に着いてきて!」

 理花は勢いよく立ち上がった。
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