アロマティック

「俺はここで待ってる」

「必ず1回で合格決めて、早く帰ってくるね」

 みのりはいったことを守るだろう。
 それでも身を引き裂かれるような思いがするのは、彼女のことが愛しくて愛しくて愛しくて仕方ないせいだ。
 いっそのこと一緒に行ってしまおうか?
 ……いや、だめだ。コンサートがある。
 やはり、大人しく待っているしかないのだ。

「あの、永遠? 眠いわりにはその、元気、みたいだね」

 みのりが自分と永遠との間に現れた硬いものに気づいて、恥ずかしそうに苦笑い。

「お前を抱きしめると、こうなっちゃうんだ」

 永遠はみのりに反応する自分の分身の命令に忠実に従い、みのりの顎を捕らえ、上向かせる。

「わたし、そろそろお化粧――んっ」

 逃がすものか。
 口を開けたみのりの唇をキスでふさいだ。

「と、永遠……」

 キスをしながら服を脱がせていく。

「ね、ねぇ、着替えたばっかり……!」

 身をよじるみのりをがっちり掴み、体を反転させてベッドに押し倒した。

「服なんて、脱いだらまた着ればいい」

 至近距離にあるのは、欲望に潤んだ瞳。掠れた低音ボイスに心の内側を撫でられ、みのりは抵抗できなくなった。
 窓から入る朝日の、柔らかな光りに包まれて、ふたりは体を重ねた――。


 数時間後。
 羽田国際空港では、搭乗時刻ギリギリに慌ただしく飛行機に乗るみのりの姿があった。
 その顔に浮かぶのは、満たされた笑顔。
 心配も不安もなにひとつない瞳は、希望に輝き未来を見ていた。
< 317 / 318 >

この作品をシェア

pagetop