アロマティック
「アロマアドバイザーって、わたしが?」

「ああ」

「あなたの?」

「そう」

「……資格でも取るつもり?」

「いや」

「じゃあ、どうして?」

「次のドラマで、アロマを扱う役やるんだ」

「ドラマ……」

 ドラマといわれても、ピンと来ない。

「お前のここ、借りるわ」

 といって、永遠は自らの頭を指した指先でトントンと軽く叩く。

 えーと、ちょっと待って。
 契約ってお互いが同意して交わすものだよね?
 わたし、合意してないんですけど?
 契約書があるってことは、そこに至るまでの書類関係は……。
 魅力的な男性に請われ、いや進んで? 嬉々とペンを取る理花が頭に浮かぶ。
 本日、二度目の深いため息。
 本人が書いてないんだから、それは偽造の上に成り立った契約だ。
 断ろうと思えば断れる。
 でも、これから探さなければいけない職が、イエスといえば苦労もなく決まる。家賃や生活費に頭を悩まさなくてもいいわけだ。わたしが理想とする職場、男と接することの少ない女性の働く現場、ではなくなってしまうけど。
 あらためてとなりで圧倒的な存在感を放つ永遠を見る。長身でスタイル抜群、目を引くハンサムな男。どう見ても男だ。
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