アロマティック
 聖の言葉に、改めて自分が置かれている状況に気づかされる。
 大丈夫、大丈夫。この人たちは忙しい集団。わたしはわたしで自分の仕事に集中していればよいのだ。みのりは心に芽生えた不安を押し込んだ。

「ってことで、ひとつよろしく~!」

 ぼうっとしていたみのりはその声にハッと我に返り、ウィ~! とはしゃぎながら手を出してくる聖に、条件反射でハイタッチしていた。

「聖ちゃんフレンドリーすぎ」

 床の上で伸ばした足を開脚して、足の爪先に手を置いて体を伸ばしながらストレッチをしている天音が苦笑する。
 入り口で、聖に足止めされていたみのりが天音の前を通りすぎると、挨拶代わりに、あの人懐っこい笑顔が返ってきた。
 よかった。昨日感じた違和感はどこにも見当たらない。
 荷物を置いてストレッチで体をほぐし始めた永遠。みのりはそのそばのテーブルにトランクを置くと、天音の様子に安堵していた。
 やっぱりわたしの気のせいだったのだ。あんな天使みたいなひとが、冷酷な表情をするわけがない。

「聖ちゃん、テンション高いだろ」

 いつもあんな感じなんだよ、なんて笑う永遠の仲間を見る眼差しはあたたかだ。何年一緒にいるのだろう? メンバー同士、ちゃんと信頼関係ができていなければできない表情だ。

 その時、大きな音を立ててドアが開く。乱暴に開かれたドアが勢いそのままに壁に激突。

 バン!

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