アロマティック
 永遠も行ってしまったので、みのりは、基材を片付け始める。が、ふと視線を感じて手を止めた。

「……?」

 天音だ。
 普段見せる人懐っこい表情はどこかへ消え、いまは心の奥まで探るような、真っ直ぐな視線でみのりを見ている。
 わたしのなかになにを探しているのだろう?
 気になったみのりは見つめ返し、しばらく天音と見つめあった。先に視線を外したのは天音で、何事もなかったように、メンバー同士の会話に加わっていく。
 なんだったんだろう?
 なにか引っ掛かるものを感じて天音の様子を探ったが、その後、目が合うことはなかった。

 練習は続き、何度も繰り返しては確認に余念がない。本番のスペシャルステージのために、何曲も通して激しく動き、汗をかいて息を乱している。
 それでも誰ひとり弱音をはくことはなかった。
 こらがコンサートとかだったら、もっと大変なんだろう。
 体を動かすEarthを見ていて、自分は踊ってないのに、なんだか喉が渇いてきた。
 出ていく前に、永遠には声をかけておこうかと思ったが、踊るのをやめて動き方について、メンバーと頭を寄せあって話し合っているのを見てためらった。
 邪魔しちゃいけないな。
 声をかけるのはやめて、お財布を取り出すと、自販機を探しにそっと抜け出した。
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