アロマティック

毒のある門番は本性を隠す

 静かな廊下。
 自販機の電子音が、辺りに響いている。

 数分前。
 喉が渇いたみのりは、飲み物を探して自販機でミネラルウォーターを買った。自分のだけでは申し訳ないと、Earthのメンバー分の飲み物を買おうとしたところで、天音が現れたのだ。

 天音の片手が、自分と自販機との間にみのりを挟むように置かれている。
 冷たい機械と温かな人の間に閉じ込められたみのりに、天音の唇が近づく。静かな声でささやくその唇が、みのりを部屋へと誘う。

 ふたりだけで、と……。

 天音が近くにいることに不安は感じなかったが、落ち着かない気持ちにはなっていた。みのりの心臓は激しく胸を叩き、冷静に考えることができなくなっている。
 どうしてこうなったの?
 みのりには天音が何を考えているのか、全然理解できなかった。
 ふたりだけで部屋へ?
 普通、知り合って間もない相手を、平気で部屋に招き入れるだろうか?
 自分の生活している空間を、見せられる?
 わたしがもし、天音のだったら……。
 ああっもう!
 どちらにしても、天音の熱が伝わってくるこの状況じゃ考えがまとまらない。

「あの、近くない?」

 天音はみのりの問いかけを無視した。空いている方の手で、みのりのセミロングの髪をひとふさ手に取り、鼻に近づけた。

「君の髪、いい香りがするね」
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