アロマティック
「だから……精油でしょ?」

「精油……? いったいなんの話しを……」

 話しの食い違いに気づいて、天音がうんざりした様子でため息をつく。

「え、違うの?」

「本当いい加減にしてよ」

 天音が噛み締めた歯の間から、呻くように吐き捨てる。
 わざとなの? 天然なの? バカなの? よくこのシチュエーションで、そんなこと考える余裕あるね。思い通りの展開に持っていけない天音が歯噛みする。
 しかし、冷静にならなければ相手の思うつぼだ。せっかくのこの状況も無駄になる。
 天音は気を取りなおして、再び声音を変え、みのりに誘いをかけた。

「Earthなら誰でもいいんでしょ?」

「………」

 みのりは首を傾げた。
 どうも仕事の話しをしているわけではなさそうだ。
 雲行きがあやしい。
 行きたくない方向に会話が進んでいる気がして、みのりは頭を悩ませた。
 でも、そう考えれば天音の行動の数々に納得が行く。

「ぼくと寝れば自慢になるんだから、それでいいじゃない」

「ね、寝る!?」

 ストレートな言葉に、みのりの声が裏返る。
 天音の最終目的はそれ!?
 いや、それにしてもだよ。寝るって、そんなことさらっと言えちゃうものなの!?
 ただやりたいだけ?
 わたしと?
 まさか。

 例えゲームのつもりで仕掛けてきたとしても、酒の勢いでもなく、行きずりの相手でもない、知り合ったばかりのわたしに、なぜいまこのタイミングで?
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