アロマティック
「あぁ、なんだ。彼氏いるんだ」

 納得顔の天音。

「それも違う。わたしの人生に男は不必要なの」

「不必要なんてまた凄い発言だね。どうしてなのか聞いていい?」

「………」

 負の感情との戦い。
 辛かったあの日々。
 激情に苦しんだ時間。
 胸の奥深く、封印した感情。
 フラッシュバックしそうな光景を慌てて押し込める。
 なにも思い出したくない。

「話したくない」

 無理矢理にでも聞こうとするならば、わたしは戦う。みのりは覚悟を持って、天音の瞳を見据えた。

「わかったよ。でも……」

 自販機から離れた天音の右手が、みのりの首に触れる。その手の冷たさに、驚いたみのりが一瞬体を震わせた。
 己がみのりに与えた影響に、笑みが浮かぶ。その天音の笑顔にはどこか恐ろしげな凄みが感じられた。

「永遠の足を引っ張るようなら……容赦しないよ」

 みのりの首にかかった天音の親指が、喉元に強く押し付けられる。

「―――!」

 苦しい!
 みのりの顔が痛みに歪む。

 天音は本気だ。
 もし、みのりが浮わついた感情でいたなら、今すぐにでもこの仕事から下ろされていただろう。
 Earthに近づくものを見定め、排除するつもりで近づいたのだ。
 誘いをかけたのもすべて偽り。

 自分の仲間を守るため――?
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