アロマティック
「そのときは遠慮なく消して」

 わたしに後ろめたいことはなにもない。排除される理由がひとつもないみのりは、堂々とした笑顔で受け止めた。

「ね、わかったらさっさとどいてくれない?」

 首にかかる天音の手を退かして、「はい」その手にミネラルウォーターのペットボトルを押し付ける。

「なに?」

 渡されたミネラルウォーターのペットボトルと、みのりを交互に見比べて唖然とする天音。

「持ちきれないから」

 みのりは話しながら、警戒する必要のなくなった天音に背を向ける。小銭を出して、自販機にお金を入れた。ミネラルウォーターのボタンを押して、新しいペットボトルが音をたてて落ちてくる。

「はい?」

 完全にみのりのペースに巻き込まれた天音が、展開についていけないようで戸惑いをみせている。
 自販機からペットボトルを取り出したみのりが顔をあげる。

「皆の分、持てないから」

「えっだからってぼくが持つの!? ええっ!?」

 手のなかに増えていくミネラルウォーターは、やがて片手だけでは持ちきれなくなり、天音は、両腕を使って落とさないように持ち変えた。
 しかしその表情は、唇を尖らせ、みのりの待遇に対する不満をあらわにしている。

「ぼくを誰だと……」
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