アロマティック
「風邪か?」

 心配そうな朝陽に、風邪ってほどじゃないんだけど、とぼやきながら聖は首をかしげる。

「聖さん、自己管理ちゃんとやってくださいよ」

「だからまだ風邪じゃねぇって」

 天音に注意されて、面白くなさそうに反論する聖がまた咳をする。

「移さないでよ」

 天音が苦いお茶を飲んだときのように、渋い表情でわざとらしく聖の側から離れる姿は、本当に迷惑そうでもある。

「あ、お前、その反応はないだろ」

 逃げる天音を追う聖。やっぱり言葉の所々で声が掠れている。

「ってか俺の方に来るな!」

 巻き添え食らった朝陽が吠えている。
 本人たちがどう思っているのかわからないが、みのりの目にはその様子がほほえましい光景に映り、つい笑ってしまった。
 まるで、わちゃわちゃと教室ではしゃぐ男子だ。
 仕事柄、風邪を引いたら休みますっていうわけにもいかないのだろう。歌を歌うのだから、声の調子を維持することも大事。また、グループで行動することが多い分、一人でも欠けたらEarthではなくなってしまう。
 どんなハードスケジュールでも、健康維持をしていかなくてはならないのだ。アイドル業は大変だ。

「ひとをバイ菌扱いしやがって!」

 ふてくされた聖がテーブルを挟んだ向かい側に座って、みのりに笑いかけてきた。
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