アロマティック
 多方面での活躍ぶりが、彼を取り巻くオーラが、ただのアイドルではないことを裏付けていた。だからこそ、周りの人の視線は自然と集まるし、誰もが永遠を起用したがる。
 完璧な仕事人間だけど、人間くさいところもあって、どこか憎めなくて。悪ノリが過ぎると思うところもあるけど、結局最後は波風立たないようにうまくまとめてしまう。
 次どんなことするんだろう? どんな表情を見せるんだろう? 周りの関心を引き寄せて、飽きさせない。
 人として魅力的なのは、さすがのわたしにもわかる。
正直、どれくらい人気があるのか知るのが怖い。知ってしまったら、立場も関係性も変わってしまいそうだから。
 今のままがいい。
 軽口も叩けて、気楽な関係。
 仕事も順調で、充実しているいまの環境を壊したくない。
 ただ、余計なことだとわかっているけど、ひとつ気になることがあった。
 永遠の、過去。
 出会った日、居酒屋のトイレで吐いた弱音。
 普段弱味を見せない永遠でも、失恋を経験しているのだ。
 あの日以来、口にすることはないけど、その傷は癒えたのだろうか?
 失恋の相手は……わたしの膝枕の上で、寝ぼけて口にした名前……春?

 みのりが物思いにふけっていると、ドアを一回叩く音がして、濃い紺のフロックコートをバッチリ着こなした永遠が入ってきた。
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