百合の花
夜と百合
◇◇◇
思わず男は目を見張った。
自分のもとに来た少女が、あまりにも美しかったからだ。
テレビや雑誌でずいぶん知っている顔なのに、生で見るのとやはりちがった。
こんなに美しかったとは――…
「こんばんわ、社長さん」
妖しく口を開く彼女に、思わず喉を鳴らした。
いつものふわふわの上品なキャラメル色のショートカットでなく、真っ黒なロングの黒髪。
真っ黒のサングラスをかけているにも関わらず、その華やかなオーラは隠しきれない。
所々にパールがついている黒のイブニングドレスは、ホテルのレストランというシチュエーションにあっていた。
そんな彼女は、高いヒールを優雅に響かせ近づいてくる。
「わたし、桐生鈴花です」
やけに妖艶に。
彼女は口角を上げた。
< 1 / 36 >