百合の花
凶器もなにも持っていないし、彼女――桐生鈴花にはアリバイがある。
彼の元にいた、というアリバイが。
彼が証明してくれるからそれでいいだろう。
もしなにか言われても、怖くなって逃げたなどと言えば良い。
証拠はないのだから。
誰も、こんなモノを信じないのだから。
「…まあいいや。今から向かうから。お薬用意して待っててね?」
『早くしろ。こっちは眠い中まってんだから。俺明日も仕事だし』
「ひっど!?もっといたわってよ!よくやったな、とかさあ」
『電話で言って欲しいの?』
「…っ、」
不意打ちで、甘い言葉にしか聞こえない言葉を囁かれる。
――そんな風に言われたら、誤解しちゃうじゃんか…
彼は天然だ。
それでいて、不意打ち。
女のことを全く解っていないのだ。
「殺す」
『俺はまだ死ねない』
「…ムカつく」
『いいから早く来い』
――待ってるから。
そう言われてときめかない女はいない。