百合の花
「遅くない?読むの」
「……」
そうかな、と首をかしげる。
本を広げて二日たつのに、瑠璃はまだ読み終わらない。
今も熱心に視線を這わせるが、正直言って本より俺を見ていてほしいと思った。
絶対に口にしないけど。
ちなみにその本は伊織執筆のものだ。
『新婚』がテーマらしいが、俺まだ読んでないからよくわからない。
「…あ」
小さく彼女は口を広げた。
「なに、どうかした?」
ふああ、とあくびをこぼした俺に、瑠璃は答える。
「…じっくり読んでるから」
ラブラブな兄弟だからの台詞である。
…伊織、今度覚えとけよ。
イライラが俺を支配する。
独占欲という名の、イライラが。
瑠璃に這いより、はらりと落ちた髪を耳にかける。
露になった耳に、そっとキスをした。
「っ、」
途端に耳が赤く染まる。
耳が赤くなるのは照れている証拠である。