百合の花
「ほら」
ポーチの中に入ってる体温計を渡して気づく。
「…弥生、寒くない?」
こいつ、まだ黒のイブニングドレスのままなのだ。
長袖の素材に白のボアと言っても、やっぱり寒々しい。
生地が薄いのだ。
「…あー、別に寒くないけど」
「……」
私の服貸そうか、と首を傾げてくる。
「瑠璃、お前のじゃサイズが合わないよ」
「…!」
あ、そっか!と目を本の少し開いた。
「…なんで歌月表情だけで言いたいことがわかんの?」
「え?普通わかんない?伊織もわかるけど」
「なっ…私も瑠璃ちゃんのこと解るようになる!」
意味のわからない対抗心を燃やされた。
しかし、服か…
「歌月のでいーよ」
「はあ?」
弥生から言われた一言に思わず変な声を出す。
「歌月の服かしてよ」
「お前帰れないだろ、そしたら」
「…じゃ、今日入院する」
そういうやいなや。
どたばたと瑠璃はどこかへ向かい、何かを持ってやってきた。
お客様ようの布団一式。
おもに伊織系の生き物が使うそれを、うんしょうんしょと頑張って運んできた。
よたた、とたまにバランスを崩す姿は愛らしい。
「なっ…大丈夫だよ瑠璃ちゃん、私やるから…」