百合の花
「まあこれ、プライベートですし」
「っ、」
えへへ、と。
顎を引いた上目使いで、照れたように笑う。
「お、お座りくださいっ」
「すみません、失礼します」
椅子を引くと、大人の対応をしはじめた。
照れたような笑みからのギャップに、ドキンと胸が騒いだ。
「今回はありがとうございます。なんでも推してくださったとか」
「いえいえ!こちらこそ私をCMに推して頂いてありがとうございます」
男は小さな会社の社長であった。
それがどんどんと売れてきて、ようやくCMを出せるくらいの規模になったのだ。
以前からぜひ桐生鈴花を起用したいと思っていて、そう事務所にも推していた。
無理も承知で。
なぜなら桐生鈴花は引っ張りだこの売れっ子タレント。
無名と言ってもいい会社のCMになんて出てくれるはずがない。
しかし、先日急に彼女本人から電話がかかってきたのだ。
しかも彼女自身が推して受けた、というから驚き。
信じられないまま今日を迎え、男は今もなお夢のように思っている。