百合の花


…でも、仕方ないの。



私たちの付き合いは20年以上。


めんどくさくなったからと言って、簡単に切れるような仲じゃない。


私は歌月を勝手に困らせているんだ。


困った歌月はいつも曖昧にはぐらかす。



優しいから。

馬鹿だから。

天然だから。



私を舞い上がらせてることも知らずに。


「ん、なんかいいにおいする。弥生風呂入ってきたの?」


「う…うん。泊まる気満々だったし」


「相変わらずちゃっかりしてんな」


くしゃ、と崩したように笑った。




冷めたマグカップを手にし、飲み干す。


これから私は眠るのだ。


一日中、覚めることなく。



ゆっくりと、歌月の優しさを思い出しながら。



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