こうべ物語
両親に少し出かけてくると伝えて、さくらは外へと出た。
夏休み真っ只中の8月。
夜でもまだまだ暑さが厳しい。
勝利の家の前を通り過ぎながら、チラリを2階を見上げる。
先程自分の部屋から見えた時と同じように勝利の部屋は真っ暗だ。
家を出て、3分ほど歩くと大きな公園に到着する。
幼少の頃から走り回って遊んでいた公園。
北区藤原台は、神戸の中心、三宮へのベッドタウンとして、また、すぐ北側を横断している中国自動車道を走ると大阪までも比較的スムーズに行ける場所として家族連れを対象として開拓された街だけに、適度にグラウンドがある公園が存在している。
さくらは公園の中に入ると、グラウンドに2つの影を見つけた。
さらに近づいて、見つからないように木々の間に隠れる。
何度も何度も同じ動作を繰り返す影。
そして、その影の隣でじっと動かない影。
素振りをしている勝利と、それを見守っている勝利の父親の影だ。
小学校の頃からこの光景を何度も見ている。
この夏休み期間中も、雨の日以外は必ず素振りをしている。
そして、その姿を陰から見つめる事が、さくらにとっての日課となっていた。
「腰が浮いてきているぞ!」
勝利の父親の野太い声が聞こえてくる。
「はい!」
「そうだ。いいスイングだ。」