こうべ物語





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その日は、朝から雨だった。


いつものように1人、通学路を歩いていると、自分の前を誠也が歩いているのが見えた。


声を掛けようと思ったが、先に他の女子生徒達が声を掛けていたので、思わず堪えた。



(雨でもライブの練習ってあるのかな…。)



ふと思う。


練習自体は室内で行っているはずなので、天候は関係ないと思うのだが、涼子は何となく、今日も放課後待っていようと思った。


今日は待ってろとは言われていない。


それでも、若松公園の入口に来ていた。


ピンク色の傘を差して、比較的雨が当たらない場所を見つけて佇む。


雨に濡れながら立っている鉄人28号が、いつもより力強く見える。



(これから寒くなるけど、誠也とどこかに行きたいな…。)



付き合いはじめてから、はっきりとしたデートをした事がない。


メールでやり取りして、鉄人28号の傍で簡単に言葉を交わして。


誠也は髪を撫でたり、肩を抱き寄せたりはしてくれるが、手を握ってくれる事も、キスをしてくれる事も無かった。



(きっと、私の事を思っての事だと思う…。)



そう思うとまた嬉しさが込み上げてくる。



(私も、やっと心の強さを手に入れる事が出来た…。)



雨なので人通りは少ないが、目の前を傘を差しながら人々が横切って行く。


陽が傾き始め、視界が悪くなってもじっと涼子は佇んでいた。


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