こうべ物語

「はぁ～。」



玄関の前で、もうどれくらい立ち止まっているのだろう。


麻里奈は、扉を開ける勇気が出ないままでいた。


涼子、さくらと出会い、楽しい食事の後、帰りの電車の中で届いた執事からのメール。



『どうやら、お嬢様のボーイフレンドの事がお耳に入ったようです。』




（どう考えても七海君の事だよね…。）



同じバイトで同い年の彼氏、上沢七海。


海が、魚が好きで、デートはいつも須磨海浜水族園。


七海の横顔を眺めている事が麻里奈の一番の幸せだった。



（それにしても、どうしてばれたのかしら？）



先日、駅で別れた際に執事に目撃された。


何度もしつこく内緒にして欲しいと念を押した。



（執事がお父様に伝えたのなら、怒ってるってわざわざメールをくれるだろうか？）



執事からのメールを見ると、執事自身が話したようには見受けられない。



（お父様…、何というだろう。）