こうべ物語
「いいか、麻里奈。お前には立派な許嫁がいるんだ。押部谷家にとって最高のな。お前が許嫁と結婚するまでは、綺麗なままで守る事は父親として当然の事だろうが。」
「会った事もない人を許嫁って言われて、結婚しろって言われても、無理に決まっているでしょ。」
「お前は押部谷家の大切な1人娘だ。安っぽい男を近づけさせる訳にはいかん。」
「安っぽい男なんて…。」
父親からの一方的な言い方に、麻里奈は涙が溢れてきた。
(七海君…。)
父親は麻里奈の肩から手を離すと、執事を呼び寄せ、耳元で何やら囁いた。
「お父様…。今…、何を指示したの…?」
涙を拭きながら尋ねる麻里奈に向かって、父親は平然と答えた。
「その男をすぐに探し出す様に手配しただけだ。」
「もう…。」
両手で拳を作る。
「もう…、いい!」
「おいっ、麻里奈!」