こうべ物語
石屋川駅から七海の家に向かって歩いて行く。
その間も麻里奈は俯いたまま何も話そうとはしない。
七海は麻里奈に問いかける事も無く、そっと手を握って並んで歩いた。
「ここなんだ。」
七海の声に反応し、顔を上げる。
2階建のアパート。
階段を照らす電球が点滅している。
夜の暗がりの中でも決して綺麗とは言い難いかなり古めのアパート。
「ここが僕の家なんだ。」
「七海君の…、家。」
『お前は押部谷家の大切な1人娘だ。安っぽい男を近づけさせる訳にはいかん。』
(七海君は…、安っぽくなんかない。)
アパートを見上げながら再び涙が溢れてきた。
「入っても…、いいかな?」
小さく呟く麻里奈に七海が優しく微笑む。
「こんな部屋で良かったら、どうぞ。」