こうべ物語
「私は普通の一般市民よ。」
「お茶するだけでこんな高級な場所、一般市民は来ないですよ。」
窓の外を見ると、綺麗に整えられた立派な日本庭園が見える。
「もういいって。」
さすがにうんざりした態度を見せた麻里奈だったが、相手が年下のさくらなので、すぐに笑顔を見せ問いかけてきた。
「ところで、さくらちゃん。1人で有馬温泉に何しに来てたの?」
「実は…。」
(あの時一緒に助けてくれた麻里奈さんならきっと分かってもらえる。)
麻里奈からの問いかけに、少し悩んた表情を見せたが、やがて真っ直ぐに見つめながら話し始めた。
「私、好きな人がいるんですけど、凄く野球が好きで、朝から晩まで頭の中は野球しかない奴なんです。」
「カッコいいね。」
「カッコいいんです、男らしくて…。でも、向こうは私の事、ただの幼馴染としてしか見ていないんですけどね。」
苦笑いを浮かべる。
「で、実はその人が先日、鈴蘭台で対外試合があってその時に肘を痛めたらしいんです。」
「まぁ。」
「野球肘らしいんですが、私もネットで検索したくらいの知識しかないんですが、もう野球が出来なくなるかもしれないんです。」
「それは…。」
「中学卒業したら、愛知の野球の強豪校に進学するって言っていて、そうなると、離れ離れになるのですが、それ以上に、野球が出来ない辛さを傍で見てると、私もとても辛くて…。」
「…。」