こうべ物語
『言ったじゃん。俺は大池さんの事、好きだって。』
(少しでも、ほんの少しでも…。)
『人は人だろ?俺は涼子が可愛いと思うし、素敵だと思うよ。』
(誠也の彼女だなんて自惚れるんじゃなかった…。)
『信じても…、いいですか?』
『当たり前だろ。』
(信じるんじゃなかった…。)
涙が溢れてくる。
けれど、羊達が、動物達が、涼子の心を癒してくれているような気がした。
涼子は六甲山牧場に来ると、必ず一番に見る動物があった。
それはポニーだった。
両親に連れて来て貰っていた頃、よく乗馬体験をしていた。
小さなポニーの背中に乗ると、視界が広がる気がしてとても楽しく感じられた。
その思い出が今も心にしっかりと残っている。
入場口から少し歩くと、ポニー舎が見える。
その奥にポニーパドックがあり、天気が良い今日ならは、太陽の光を浴びながら、パドックにポニーがのんびりとくつろいでいるはずだ。
涼子が近づいて行くと、ポニートラックには、数人の見物客が取り囲んでいるのが見えた。
その中にいる家族連れの1人の後姿に涼子は何気なく感じる物があった。
(あの後姿…。)