こうべ物語
半袖の水色ポロシャツにデニムのショートパンツ。
そこから伸びる腕や足の細さと色黒さ。
健康的なスタイルが印象的だ。
その女性に確かに見覚えがあった。
(さくら、ちゃん…。)
夏期講習へ行く事が嫌になり、彷徨いながら辿り着いた湊川神社。
じっと俯いていると心配してくれて声を掛けてくれた。
その後、麻里奈と出会い、3人で温泉に入り、ホテルで食事をした。
あの時の事はおそらく一生忘れる事がないだろう。
(あの時、さくらちゃんが声を掛けてくれてなければ、私はどうなって…。)
そう思うと、今更ながらに自分の不甲斐なさが込み上げてくる。
呆然とさくらの後姿を見つめていると、気配を感じたのか、さくらが突然振り返った。
目が合うと、さくらは驚きの表情を見せる。
涼子は、そのまま黙って頭を下げた。
さくらは、隣にいる母親に耳打ちすると、1人で涼子に向かって近づいてきた。