こうべ物語



(傘。)



黒い大きな傘が頭の上に広がっている。


そのまま後ろを見ると、勝利が少し微笑みながら立っていた。



「風邪引くぞ!」



「勝利!」



思わず抱きつきたくなる気持ちを必死で抑える。



「やっぱり、分かってくれたんだね、待ち合わせの場所。」



「あぁ。」



短く返事をすると、降りしきる雨の中のグラウンドを眺めた。



「今は野球が出来なくても、このグラウンドを見ていると、やっぱり野球をやりたくなるよな…。」



その声が寂しく聞こえる。



「ごめんね。変に嫌な事、思い出させちゃったかな?」



「お前が、そんな事心配するキャラじゃないだろうが。」



傘を持っていない手の指でおでこを軽く弾かれる。



「いったぁい!何するのよ!」



「デコピンぐらいなら肘が痛くても出来るからな。」



そう言ってニヤリと笑う勝利。


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