こうべ物語
「やっとギブス取れて良かったね。」
「ああ。」
その顔を見ただけで、さくらの胸の中で大きく安心感が生まれた気がした。
「あのね、勝利。」
一呼吸置いて、話し始める。
「これ、この前、有馬温泉で買って来たんだ。関節痛にも効くって書いてあったから…。」
有馬温泉金泉の入浴剤を差し出す。
「私、ずっと幼馴染として、勝利の傍にいて勝利の嬉しい事も辛い事も一番傍で感じる事が出来て、おじさんやおばさんにも可愛がって貰えて、今更だけど、私、とても幸せ者だと感じる事が出来たの。」
「…。」
「お父さん、お母さんにも大切にして貰えて…。それがいつの間にか当たり前に思ってしまって。人の気持ちを分からない人間になっていたの。」
「そんな事ないよ。」
「ううん、ある。だから、勝利が肘を痛めて野球が出来なくなったのに、どうしたらいいか分からなかった。分からないから、何でも思った事、言ったり行動したり、それが相手の為にならないかもしれないのに…。」
そこまで話すと、頭に温かさを感じた。
冷たい雨に逆らうような温もり。
「今まで、はっきりと口にした事無かったけど。」
勝利がさくらの頭に手を乗せたまま呟く。