こうべ物語



「さくらには感謝している。さくらがいたから頑張れた、頑張れると思ってる。」



顔を上げると、勝利が穏やかな顔をしている。



「ほんと、に?」



「ああ。」



「勝利、私…。」



押えきれない気持ち、思い。


その思いは涙となって溢れ、そしてそのまま勝利に飛びついた。



「私…、勝利の事が好き、大好き!」



勢いよく飛びついた弾みで、持っていた傘がひらりと地面に落ちた。


勝利は落とした傘を拾う事無く、ゆっくりと片腕でさくらを抱え込む。



「俺も、さくらの事が好きだ。」



「…ありがとう。」



「悪いな。片腕でしか受け止められなくて。」



「ううん、嬉しい。」



葉の間から落ちてくる冷たい雫。


その雫を感じる事無く、じっと抱き合う2人。


髪の毛から肩に滴る雨が腕を伝い、2人を結び付けている様に思えた。


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