こうべ物語
「俺の勝手で、名谷で降りれば真っ直ぐ家に帰れるのに、わざわざ乗り過ごして新長田まで来て貰ったり、何時でも待たせたり、本当に悪いと思ってる。俺は彼氏失格だと思ってる。」
「失格なんかじゃないよ!」
今度は涼子が強い口調で言い放った。
両親と過ごす事がほとんどない涼子にとって、毎年の誕生日はいつも1人だった。
友達に祝福される訳でもなく、メールが来る訳でもなく。
何も変わらない、普段通り家で1人でいるだけ。
それだけに、自分の誕生日を覚えてくれ、そして、プレゼントを用意する為に必死になってくれていた誠也に対して、自分の不甲斐なさを改めて痛感した。
「誠也…、ごめんなさい。私が…、誠也を信じないから…。」
「謝るなよ。俺がコソコソしているから悪いんだ。」
持っていた鞄を開けて小さな箱を取り出す。