こうべ物語



「本当は来週の誕生日に渡すつもりだったんだけどな。」



目の前に差し出された小さな箱。


中に指輪が入っているのは見なくても分かる。


涼子は涙を止める事が出来ず、両手で顔を覆い、ひたすらに泣き続けた。


そんな涼子を見つめながら、誠也は指輪の入った小さな箱を鞄に片付ける。



「中身を見せるのは、誕生日の時でいいだろ?」



「…うん。」



小さく呟く。


箱を片付けた手で、顔を覆っている涼子の両手を取り、優しく握りしめた。



「心配かけて、迷惑かけて、辛い思いさせて悪かったな。」



その問いかけに軽く首を左右に振る。



「いつまでも、俺の傍にいてくれるか?」



「…いても、いいの?」



「当たり前だろ。」



俯いたまま、流れる涙をそのままに、涼子は心の奥から人生で一番の幸せを感じた。


< 177 / 202 >

この作品をシェア

pagetop