こうべ物語
「本当は来週の誕生日に渡すつもりだったんだけどな。」
目の前に差し出された小さな箱。
中に指輪が入っているのは見なくても分かる。
涼子は涙を止める事が出来ず、両手で顔を覆い、ひたすらに泣き続けた。
そんな涼子を見つめながら、誠也は指輪の入った小さな箱を鞄に片付ける。
「中身を見せるのは、誕生日の時でいいだろ?」
「…うん。」
小さく呟く。
箱を片付けた手で、顔を覆っている涼子の両手を取り、優しく握りしめた。
「心配かけて、迷惑かけて、辛い思いさせて悪かったな。」
その問いかけに軽く首を左右に振る。
「いつまでも、俺の傍にいてくれるか?」
「…いても、いいの?」
「当たり前だろ。」
俯いたまま、流れる涙をそのままに、涼子は心の奥から人生で一番の幸せを感じた。