こうべ物語





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もう何度この場所を訪れたのだろう。


大学生になって初めて電車や1人で出掛けるようになった麻里奈にとって、唯一、地図にも誰にも頼らずに来れる場所。



(須磨海浜水族園…。)



『七海君はどうしてそんなに魚が好きなの?』



『名前に海、が入っているから。』



『何それ~。』



(デートの時は必ずこの場所。)



入場券を買って、中に入る。


平日なので、館内は比較的空いている。


入場口入ってすぐの大水槽。



『私は、七海君の嬉しそうな顔を見るのが好きだから、それでいいの。』



(そう、この場所で、魚を見ている七海君が一番好き…。)



麻里奈は恐る恐る大水槽に目を向けた。


人は少ないとはいえ、やはり一番大きな水槽の前には子供達が群がっている。


右側から順番に水槽を見上げている背中を確認する。



(いない、な…。)



必ずこの水族園に居る確証はない。


今日来ている保証はない。


何より、もう神戸にいない可能性が高い。


それでも、麻里奈は心の中で確信を持てた。



(ここで、必ず会えるはず。)


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