こうべ物語
(い、た…。)
信じられない気持ちと、嬉しい気持ちが混ざり合う。
水色のワイシャツにジーンズ。
キャップを被っているが顔ははっきりと分かる。
紛れもなく、七海だった。
麻里奈は、ゆっくりと階段を一段一段踏みしめるように登って近づいて行く。
(やっぱり、嬉しい…。)
七海の座っている座席から5段ほど手前で目が合った。
七海も驚きの表情を見せている。
「七海、君…。」
麻里奈は目が合った途端、急いで駆け上がり、そのまま七海に抱きついた。
「ごめんね、ごめんね…。」
抱きつきながら耳元で何度も何度も謝る。
七海は優しく麻里奈の腰に手を回すと、小さく呟いた。
「僕が、悪いから。」