こうべ物語
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イルカショーが終わり、観客が皆、館内へ戻って行く中、七海と麻里奈は並んで座ったままだった。
ショーを終えたイルカ達が体を休める様にゆっくりと泳ぎ漂っている姿を七海は目を細めて見つめる。
その横顔をじっと見つめる。
(そう。私は、この七海君の横顔が一番好きなんだ。)
「ある日、家に突然来客が来てね。」
七海がイルカを見つめながら話し始めた。
「体の大きい男性と、初老の男性を連れていて、私は押部谷麻里奈の父だ、と名乗ったんだ。」
「…。」
「とりあえず、家の中に入って貰おうとしたんだけど、ここで良い、と言われて、そして玄関で告げられたんだ。」
「何を?」
「麻里奈は押部谷家の大切な1人娘だ。お前に麻里奈の全てを受け止める事が出来るのか、って。」
「そんな…。」
「正直、どう答えようか迷ったんだ。僕はただの平凡な大学生。お金もないし、将来性もない。受け止める事が出来ます、と断言して言う事が出来なかった。」
「誰だって、言えないよ。」