こうべ物語
「いつも、ありがとうね。」
「お金…、絶対返すから。」
摂津本山駅の改札口で向かい合って頭を下げ合う。
「麻里奈ちゃん、気を付けてね。」
「うん、ありがとう。」
改札口を抜けて振り返り、ホームに戻る七海が見えなくなるまで手を振り続ける。
七海もまた、歩きながら手を振り続けた。
(今日も楽しかった~。幸せだったなぁ。)
「さて、と。」
七海がホームへ戻った事を確認し、頭の中で1日の事を思い出しながら歩き始めた途端、目の前にいた人物に思わず釘付けになった。
「あ、あ…。」
「お、お嬢、様…。」
自宅で仕える押部谷家の執事が呆然と立っていた。
「な、何でここに、居る、の?」
「ご、ご主人様から、お嬢様がそろそろ帰って来る頃だから、迎えに行けと…。」
「み、見てた、の?」
「はい…。」
目撃した事がまずかったと悟った執事もまたどうすればいいのか、困惑した顔を見せている。
麻里奈はすぐに執事に近寄り、両肩をしっかり掴むと、目線を合わせてじっと見つめた。
「お願いだから。今見た事はお父様には絶対に言わないで!」
《麻里奈×七海① 終わり》