こうべ物語
「子供じゃないんだから、わざわざ迎えに来なくてもいいのに…。」
先日、彼氏の七海と駅で手を振りあっていた所を執事に目撃された。
『今見た事はお父様には絶対に言わないで!』
『か、かしこまりました。』
何度も念押ししておいた。
その甲斐もあって、父親にはまだ七海の存在を知られていないようだ。
(七海君の事知ったら、お父様、すぐに別れろって言うに決まってるし。)
麻里奈の口から、はぁ、とため息が漏れる。
久し振りの休み。
七海とデートがしたかったが、あいにくバイトだったので、1人JRに乗ってハーバーランドにショッピングに来ている。
(秋物のセーターも買えたし。どうしようかな…。)
色々と悩んで歩いているうちに、大きな道路が目の前に現れた。
対岸に立派な門と、その脇に名前が彫られた石碑が建っている。
「湊川神社…。」
声に出して読み上げる。
「お父様に七海君の事、ばれないにと、お祈りして帰ろっかな。」