こうべ物語



麻里奈は、購入した服が入った大きな袋を肩に掛けながら、湊川神社の表門をくぐった。



(湊川神社って初めて来たな…。)



押部谷家では、正月になると親族一同が介して、盛大な新年のパーティーが屋敷で行われる。


家政婦や執事等、普段仕えている者まで、家族総出で参加する為、とても盛り上がる。


麻里奈は当然、そのパーティーに主役として出席しなければならない為、初詣に行った事がなかった。


あんなに人が大勢いる所、怪我でもしたら大変だ。


麻里奈を心配する父親の思惑もあるのだが。


真っ直ぐに社殿へと向かう。



(何だか、心が清らかになる気がする。)



お賽銭の前に立つと、じっと前を見つめる。



(お賽銭箱…。)



そもそも遠足ですら神社に来た事がない麻里奈にとって、何をすればいいのか分からない。


ちょうど横に居た母親と一緒に来ている幼稚園児の女の子が嬉しそうに、5円玉を真っ直ぐに投げ入れた姿が目に入った。



(普通にお金を入れたらいいのよね。)



「えいっ!」



麻里奈は、おもむろに財布から1万円札を取り出すと、そのまま丸めて先ほど女の子がやったように思い切り賽銭箱に向かって投げ入れた。


その姿を唖然と見ている他の参拝客。


周りの反応も気にせずに、麻里奈は達成感に浸る。



(初めてのお参り。勉強になった。)



元来た道を、晴れやかな表情で歩き始めると、突然声を掛けられた。



「すみません。」



声の方を向くと、ショートカットで色黒な女の子が必死な顔をして近づいてきた。



「体調が悪そうな人がいるので、一緒に助けてもらえませんか?」


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