こうべ物語
「ずっと、勝利が野球を頑張って来たのを知っているから…。」
夕焼け空に黒いカラスが2匹横切る。
「甲子園に向かって、夢に向かってもっともっと頑張って欲しいと思う。」
「ありがとな。」
「野球の強豪校って…。」
「愛知県の高校に行こうと思ってる。」
「愛知、県…。」
さくらの頭の中で愛知県の場所が思い浮かぶ。
「神戸の…、兵庫県内にも野球の強豪校ってあるじゃない。そこじゃ、駄目、なの?」
愛知までの距離を考えながら、恐る恐る尋ねる。
「父ちゃんの知り合いが愛知県に居てな。その人がその強豪校の監督さんなんだ。今まで何度も甲子園に出場している高校だし、その人自身も選手として、監督として甲子園に出場している。俺もその人の下で勝負したいって思っている。」
どこまでも力強い言葉を発する勝利の目はキラキラと輝いている。
その横顔を見ていると、さくらは頼もしく思えるのだが、自分の心を封印しようと思ってしまう。
「そっかぁ。兵庫県の神戸に住んでいるのに、そこからわざわざ愛知県に行って、兵庫県にある甲子園に出場するって。勝利、カッコいいね。」
「そうかぁ?」
微笑みながら伝えるさくらに向かって、勝利は少しはにかんだ顔を見せた。
「勝利が甲子園に出場したら、私、必ず応援に行くからね!」
「おう!さくらが来てくれるなら、本当に頼もしいよ。」