こうべ物語
(涼子さん、最後は素敵な笑顔をしていたな。)
別れ際に見せた涼子の笑顔は、さくらにとって安心感を与えるには十分だった。
(私も、涼子さんのように悩める人間になって、麻里奈さんのように大人の女性になりたいな…。)
勝利の顔を思い浮かべる。
(勝利が夢に向かっているのに、私もいつまでも子供みたいじゃ駄目だよねぇ…。)
帰りの神戸電鉄の車内でついさきほどまでの3人のやり取りを懐かしく思いながら、ふと隣に座っている母親に問いかけた。
「ねぇ、お母さん。」
「どうしたの?」
「押部谷って名前の人って、凄いの?」
どうしても麻里奈の存在が気になっていた。
母親は押部谷、の名前を聞いた途端、驚きの表情を見せた。
「さくら、押部谷さんと会ったの?」
「押部谷さんの娘さんに偶然出会った。」
「あんた、何か失礼な事してないわよね?」
母親が焦った顔で聞いてくる。
「失礼な事はしていない、と思う…。多分。」
(豪華な料理ご馳走して貰ったのは失礼じゃないよね…。)
「お母さん、押部谷さんって一体何者なの?」
「何者もなにも…。」
「ん?」
「押部谷って言ったら、関西で一番の大金持ちで、総資産が2000億とも3000億とも言われている一族なのよ。」
「ええっ!?」