こうべ物語
摂津本山駅へ向かうJRの車内で、麻里奈は大きな袋を抱えながら自然とニヤけていた。
(面白い2人だったなぁ。)
無邪気で好奇心旺盛な中学生のさくら。
麻里奈が1人で出掛けて、買い物したり出来るようになったのは大学生になってからだった。
それまでは、家政婦や執事が常に一緒だったので、電車の切符の買い方すら知らなかった。
(さくらちゃんって中学生なのに、色んな事を知っていて、とても勉強になったなぁ。)
温泉施設でのシステム、街の案内図の見方、道で手を上げてタクシーを呼び止める等々。
その全てをさくらが率先してやってくれた。
そして、終始俯いたままだったが、とても素直な高校生の涼子。
父親、母親の言いなりでしかなかった自分の高校時代。
両親の言う事が全て正しいとさえ思っていた。
(結局、私は、いつまでも親のスネをかじっているだけなのかもしれないな。)
自分自身を見つめながら、自分を分かっていながらも悩んでいる涼子が、麻里奈にとっては少し羨ましくも感じた。