こうべ物語
自宅のパソコンを開いてネットに接続する。
(押部谷一族、っと。)
さくらは興味津々でパソコンの画面に現れた情報を上から順番に読んでいった。
『大阪の貿易商社の最大手企業、押部谷ホールディングス。年商500億。一族の総資産、2800億…。』
(やっぱり、凄い人だったんだ…。)
押部谷一族の事を尋ねた際に、母親が驚いた気持ちがよく分かった。
母親の言葉が思い出される。
『あんた、何か失礼な事してないわよね?』
(湊川神社で涼子さんを助けようと思って麻里奈さんに声を掛けて…。温泉に入って、ホテルで食事して…。あとは、写メ撮って…。)
「うんうん。」
自分を納得させるように頷く。
「私、何も悪い事していない。だって、麻里奈さん、とても気さくに接してくれていたしね。」
そのまま立ち上がると、窓の外を眺めた。
顔を右斜め前に向ける。
勝利の部屋の窓が見える。
今日も灯りは点いていない。
『愛知県の高校に行こうと思ってる。』
(あんなに大金持ちなのに、麻里奈さんみたいに私と話してくれるくらい心が広い大人もいるんだ。私だって、勝利が愛知に行くからって、メソメソしていたら駄目だよね。)
自分を奮い立たせると、いつものように母親に公園に行ってくる、と言って玄関の扉を開けた。