こうべ物語
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その夜。
さくらは自室のベッドで俯いて寝そべり、顎の下に手を乗せ真っ直ぐ前を見つめたまま、ぼんやりと考えていた。
「うーん。」
幼稚園の時。
はす向かいの家に引っ越してきたのが勝利だった。
家に挨拶に来た時、母親の背中に隠れて恥ずかしそうにしていた姿が今でも印象に残っている。
(その時は、私より体小さかったのに…。)
小学校に入学し、同じクラスになれなくても、友達の少なかった勝利と毎日一緒に登下校をしていた。
小学2年生から入った少年野球チーム。
内野を守り、必死にボールを追いかけている姿にいつの間にか胸がドキドキし始めた。
それが、自分にとっての初恋だと気付いたのは小学6年生の時。
毎日毎日、必死な勝利を見ていると、自分の気持ちを伝える事が邪魔をする事になりそうでずっと心の奥に抑え込んでいた。
中学生になっても、そのまま野球部に入り、汗を流している。
そして、今、もう中学3年生…。
勝利との距離は、初めて出会った3歳の時から何一つ変わらない。
ずっと、変わらない距離。
自分の恋心に気付いてから、その距離が疎ましくもあり、嬉しくもあり、寂しくもあった。