もう一度君に笑ってほしくて
早起きだったのは将志だけではなかった。
将志が部屋を出たのとほぼ同時に目覚めた大翔は、逢沙の寝室に入った。
かつて母親が愛用していたベッドに逢沙が1人、座っていた。
「起きてたんだ」
ベッドにもたれて眠る和翔に布団を掛け直すと、逢沙の隣に座った。
片手には将志からのウサギのぬいぐるみがいた。
もう片方の手を握りながら大翔は逢沙に語り掛けた。
「僕がこんなに早起きするの、珍しくない?」
「逢沙あのね、僕、逢沙に教えてもらった料理だけは上手くなったよ」
「逢沙、また勉強教えてよ…」
「逢沙…」
始めは出来る限りの明るさで話していた大翔だったが、どんなに話し掛けても返事をしない逢沙にショックを受けていた。
思わず大翔の目から涙が溢れた。
「逢沙…?」
大翔の涙を拭う逢沙の姿があった。
昔のように、とはいかない。
だけど逢沙は少しずつ、元に戻りつつあった。
「ありがとう、逢沙」
そう言ってまた泣いた大翔の涙声を将志は逢沙の部屋のドアのもたれて聞いていた。
大翔の話し声で起きていた和翔も狸寝入りを続けていた。