沖田総司と運命の駄犬
私は、ジッと、見つめた。
梓「土方さん。前に、私が、アイドルのシンが、チョー好きって言ってたじゃないですか?」
土方「あ?あぁ。」
梓「ファンクラブに入ってて、ライブのチケット当たったんです。」
土方「へぇ。すごいじゃねぇか。」
梓「でしょ?で、ライブの日が、ちょうど、ここに来る次の週の日曜日だったんです。」
土方「そりゃ残念だったな。」
梓「はい・・・。私、すぐ、帰れると、思ったから・・・。」
わかった。
土方さん、未来の言葉が通じる。
しかも、曜日までわかってる・・・。
他の人は、曜日なんて知らない・・・。
私は、先日の角屋の時を思い出していた。
あの時、角屋で、土方さんが、女の子達に囲まれている様子は、学校で、沖田先輩が、女子に囲まれているのと、同じ光景だった。
今、思うと、手の形は違うけど、頭に置かれる手の優しさは、未来の沖田先輩と同じだ。
どういう経緯で、そうなったかは、わからない。
けど・・・。
未来の沖田先輩は、土方さんだ。
梓「土方さん・・・。」
土方「あ?」
梓「土方さんだったんですね・・・。あの時代の沖田先輩は・・・。」
私が、そう言うと、土方さんの目は大きく見開かれ・・・。
ガバッ。
抱きしめられた。
梓「え?」
土方「やっと・・・っ。やっと、気付いたか・・・梓・・・。この時を、どれだけ待ちわびたか・・・。」
梓「ちょっと待ってください!じゃあ・・・本当に、沖田先輩なの?」
土方「あぁ。騙していて、悪かった。ずっと、お前に、悪いと思ってた・・・。すまない。」
私は、全てを、聞いた。
梓「じゃあ・・・。占い屋は、無いんですか?」
土方「あぁ。すまない。もし、戻れないなら、お前の事は、俺が、必ず、守る・・・。」
梓「そんな・・・。じゃあ、私は、ずっと、この時代に、いなきゃいけないの?酷い!すぐ、帰れるって、言ったじゃん!『すぐそこだから』、みたいな言い方してたじゃんか!酷いよ!酷い・・・っ。」
土方「すまない、梓・・・。占い屋は、探していくつもりだ。」
私は、土方さんの胸の中で泣いた。
土方さんから、離れようとしたが、ギュッと、力を込めて、抱きしめられて、離れるのを、許してもらえなかった。
しばらく泣いて、落ち着いた。
ここに、土方さんがいるって事は、土方さんは、取り憑かれた物から助かったってことだよね?
梓「土方さん・・・。」
私は、土方さんの腕の中で、土方さんを見上げた。
至近距離で、目線が合う。
梓「土方さんが、ここにいるって事は、取り憑かれた物は祓えたんですか?」
土方さんは、一瞬、驚いた顔をしていたが、すぐに、笑顔になった。
土方「あぁ。この通り、ピンピンしてる。ありがとうな、梓・・・。」
梓「それなら良かったです。」
私も、笑うと、また強く、抱きしめられて、土方さんの顔が、近付いた。
それは、本当に、一瞬の出来事で、土方さんの手が、顎に触れたかと、思ったら、もう、キスされていた。
え?
私、土方さんとキスしてる?
ゆっくりと唇が、離れると、土方さんは、優しく囁いた。
土方「梓・・・ありがとう・・・。お前のおかげで、俺は、夢を叶えて、ここにいる・・・。まぁ、まだまだ、これからだが、お前には、礼を言っても言い足りねぇくらいだ。お前は、俺にとって、運命のおなごだ・・・。」
梓「土方さん・・・。」
そんな風に、男の人から、甘い言葉も、優しい言葉も、かけてもらったことなんかない。
土方さんにとって、私が、運命の相手?
色々と考えていると、土方さんは、また、私にキスをした。
そのキスは、優しい想いのこもったキスだった。
ダメだ。これ以上は・・・。
のぼせそう。
私は、湯飲みの中の水を一気に飲み干した。
梓「あれ?」
喉から胃にかけて、カーッとなった。
梓「ゲホッ。ゲホッ。」
土方「お前!それは酒だ!」
梓「えぇぇ?」
クラクラ、フワフワする・・・。
私は、いつの間にか、意識を失っていた。