沖田総司と運命の駄犬
少し、皆で、酒を呑んだ後、各々、別の部屋に入り、しばらく、一人で、酒を呑んでいると、襖が開いた。
「失礼いたします。天神の里音と申します。」
沖田「さとね・・・。そっか・・・よろしく・・・。」
里音は、僕の隣に座り、お酌をした。
綺麗な子だな・・・。
さすが、天神の位の芸妓だ。
沖田「君も呑む?」
里音「はい。ありがとうございます。」
所作の一つ一つが美しい。
沖田「綺麗な所作だね?最近、おなごでも、これがおなごかってのしか、見てなかったから、その子に、君の爪の垢を煎じて飲ませたいよ・・・。」
里音「わらしですか?」
沖田「違うよ。もうね、18にもなるのに、なーんにも出来ない子でね。迷惑ばっかりかけられてる。」
里音「ふふふ。沖田先生は、その子の事が、お気に入りなんですか?」
沖田「ち、違うよ!断じて、違う!」
里音「そうですか・・・。ふふふ。でも、沖田先生、そのおなごのお話をされているとき、とても楽しそうですよ?」
沖田「え?」
どういう意味?
里音「気付いてらっしゃらないのですか?沖田先生は、いつも、ここに、来るときは、つまらなさそうにしていらしゃるのに、今、そのおなごの話をしているお顔は、とても楽しそう・・・。」
梓の話を僕が楽そうにしてる?
そんなわけない。
沖田「ははっ。里音。天神ほどの君なのに、見る目が無いね。おかしな事を言う。」
里音「そういうことですか・・・。ふふっ。失礼しました。」
沖田「梓・・・いや・・・そんな“わらし”は、どうでもいい・・・。最近、欲求不満みたいなんだ・・・。満たしてくれる?」
里音「もちろんですよ・・・。」
僕は、酒を早めに切り上げて、里音を押し倒し、里音の首筋に、顔を近付けた。
すると、ふわりと良い匂いがした。
僕は、唇を、這わせながら、耳元で囁いた。
沖田「良い匂いだね・・・。」
里音「これは、媚薬なんですよ・・・。殿方への・・・。京のおなごの間で、人気なんですよ?」
沖田「へぇ・・・。確かに、吸い寄せられるみたい・・・。」
僕は、里音と口付けを交わそうとすると、止められた。
里音「口付けは、しないで下さいませ・・・。」
そう言うと、里音の手が、僕の懐に入り、着物をずらされたとき、一瞬、梓の顔がよぎった。
沖田「梓・・・っ!」
パッと、起き上がり、体を離した僕を、不思議そうに、見つめる里音。
沖田「ごめん・・・。その・・・。梓っていうのは、違うんだ・・・。僕、こういうの初めてで・・・。」
そう言うと、里音も、起き上がり、妖艶に微笑み、自分の帯を解いた。
パサリと着物が落ち、美しい体が目の前に現れた。
洗濯板じゃない・・・。
まぁ、当然か・・・。
洗濯板は、梓だもんね・・・。
里音「ケホッ。・・・失礼しました。沖田先生?初めてなんて、後生大事に取っておくものでは、ありませんよ?先ほどから、“梓”と囁かれていますが、そのおなごの身代わりなら、それでも、構いません。私を梓とお呼び下さい・・・。」
沖田「何言って・・・。」
僕は、無意識に梓を求めてるって事?
そんなの、信じられない。
沖田「君は、里音だよ・・・。」
僕は、意を決して、里音を抱き寄せて、里音の首筋に口付けをした。
僕は、里音の体をまさぐってる間、ずっと、頭の中には、梓が、浮かんでは消えていた。
ふと、気がつくと、朝だった。
隣に気配がある。
沖田「梓・・・?」
そちらに向くと、里音だ。
そっか・・・。僕、昨日、里音とまぐわったんだ・・・。
でも、覚えているのは、何度も梓が、浮かんで、遂に、僕は、里音を梓と呼んでいた・・・。
どうして・・・?
梓の事を、考えながら、別のおなごを抱くなんて、最低だ・・・。
ボーッと、天井の飾りを見ていると、里音が、目を覚ました。
里音「おはようございます。」
沖田「おはよう・・・。もう、行くね?」
里音は、布団からは、出ずに、ニコッと笑うだけだった。
帰り道。
朝独特の清々しい空気を吸いながら、僕の心は、少し落ち込んだ。
あんな綺麗な子を抱いたのに、ちっとも、心が、満たされない。
沖田「ずっと、梓が・・・。」
頭から離れなかった。
里音の甘い声を聞きながら、それを、梓に、重ねてた・・・。
沖田「はぁ・・・。」
これって、そういうこと?
でも、認めたくない。
僕は、屯所の門をくぐる。