沖田総司と運命の駄犬
僕は、梓の手を握り、引っ張るように、歩いていく。
梓「お、沖田先輩っ!」
土方さんは、以前、梓に、贈り物って渡した時に、僕が、返したから、全てを貰い物って言って梓に、色々な物を渡している。
一体、何度、そうやって、梓に、貢いでるんだろう。
知らない間に、梓は、見たこともない扇子まで、持っていたし・・・。
僕は、ガリッと、奥歯に力を入れた。
そんな事を考えながら、歩いていたせいか、あっという間に、菓子屋に着いた。
それに、梓は、土方さんの下心に、全く、気付いてないし、警戒もしていない。
あの人は、おなごの心を奪うなんて、朝飯前だ。
何で、この駄犬は、そういうの気付かないかなぁ。
しかも、梓の態度も態度だ。
その気があるような期待を持たせる行動が多い。
さっきだって、普通に、頭撫でられてたし・・・。
土方さんだって、きっと、思ってるはずだ。
そんな事を考えながら、菓子を見ていると、梓が、声をかけてきた。
梓「あのー。沖田先輩?何か、あったんですか?」
やっぱりね。
沖田「はぁ・・・。ったく、やっぱり、何にも、わかってない。」
梓「ん?それって、どういう意味で・・・?」
まぁ、梓が、土方さんの下心に全く気付いてないし、まぁ、そこは、鈍感で、良かったと思うことにしよう。
沖田「もういいよ。それより、菓子を買おう。好きなの選びなよ。」
梓「はい!」
一緒に菓子を選ぶと、梓は、嬉しそうに、笑みを浮かべる。
いつからか、この顔が、可愛く見えるんだもんなぁ。
本当に、恋は盲目だ。
僕達は、近くの寺の境内に入り、石の上に座る。
僕は、犬を呼ぶような呼び方をして、座った石の隣をポンポンと叩いた。
沖田「梓も、ここに、お座り。」
梓「今の言い方、完全に、犬に対する言い方ですよね。」
沖田「当たり前でしょ~。だって、犬だし。」
梓「犬じゃないです!」
沖田「はい、お食べ。」
僕は、菓子を割って、梓に半分を渡した。
梓「んーっ!美味しい!土方さん、こんな美味しいお菓子くれる人が、いるなんて、良いなぁ!」
その言葉に、僕は、ピクリと肩を揺らす。
沖田「そうだね・・・。甘いもの嫌いなのにね・・・。」
甘いもの嫌いな癖に、わざわざ、おなごに人気の店で菓子を買ってくるとか、今までの土方さんのおなごに対しての扱いとは明らかに違う。
それだけ、本気ってこと?
梓「苦手な物を贈られるって事は、土方さんの事、あんまり知らない人って事かな?」
沖田「もう、土方さんの話はいいよ。食べよう?」
僕は、土方さんの話を切り上げて、菓子を二人で食べた。
美味しそうに、菓子を頬張る梓を見ていると、触れたくなった。
僕は梓に、嘘を言う。
沖田「梓・・・付いてるよ・・・。」
梓「え?」
梓の顎に手をかけて唇を何度か撫でた。
梓の柔らかい唇の上で指を止める。
このまま口付けをしたら、梓は、どう思うのかな?
ジッと見ていると、梓の顔が、どんどん赤くなる。
梓「お、沖田先輩?」
沖田「あのさ・・・こうやって簡単に、触れさせちゃダメだよ?僕以外には・・・。」
梓「え?それって、どういう・・・。」
そう・・・僕以外の・・・土方さんにも、触らせないでよ・・・。
沖田「さ!行くよ!」
今は、これでいい。
僕は、そう言うと、立ち上がり、先に進んだ。
梓「ま、待って下さい!」
梓は、急いで僕の隣に走ってきて、ニコリと笑った。
僕は、梓の手を取り、握って歩く。
梓「あの!」
沖田「本当に犬だよね。呼んだら、喜んで、駆け寄ってくるとか・・・。今、尻尾が見えた。くくくっ。」
梓「あ!また、私の事、犬って!」
沖田「だって、仕方ないでしょ?そう見えたんだから。」
僕が、梓の頭を撫でると、梓は真っ赤になっている。
梓「あの!手、なんで繋いでるんでしょうか?」
僕は、繋いでる手を見つめた。
さて、なんて言おうか。
「梓に触れていたい」が本音だ。
でも、まだ、梓の気持ちもわからないままだ。
僕は、適当な理由を言ってはぐらかす。
沖田「あぁ。これ?2回も、脱走して、襲われてる梓が、それ言う?」
梓「う゛・・・。」
沖田「何だったら、首に縄を繋いであげようか?本物の犬みたいに。それでも良いけど?」
梓は、何かを想像したようで、青くなって首を横に振る。
梓「手を繋いで下さい!」
ギュッと手を握られて、僕も、その手を握り返して、屯所に戻った。
屯所に戻ると、僕は、隊の子に呼ばれて、夜の見廻りに出た。