沖田総司と運命の駄犬
沖田「棚が、少し開いてる・・・。まさか・・・。」
私の側を離れて、沖田先輩は、棚の戸を開けた。
沖田「あ・・・。」
私は、身の危険を・・・いや、命の危険を感じて、部屋を出た。
梓「助けてっ!」
沖田「梓っ!!この駄犬めっ!この僕の大事な物を奪うとは、命で償ってもらうっ!」
梓「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。たかがお菓子じゃないですかっ!」
沖田「『たかが』だとぉぉぉ!あれは、そんじょそこらの菓子じゃない!どれだけ並んで、手に入れたと思ってる!!バカ梓っ!」
梓「確かに、美味しかったですけど!そこまで、怒ることないじゃないですか!私のお菓子だって、食べたくせにっ!」
沖田「うるさいっ!」
私は、目の前の部屋に飛び込んだ。
梓「土方さんっ!助けてっ!」
そこにいた土方さんに飛び付いた。
土方「お前らなぁ・・・。ちったぁ、静かにしろよ。」
沖田「はぁ・・・。はぁ・・・。すいませんねぇ。梓を渡してもらえますか?」
土方さんが、私を抱きしめながら、チラリと私を見る。
梓「土方さん・・・。」
土方さんは、何かを察したらしくギュッと抱きしめる力を強めた。
土方「総司。もう止めておけ。元はと言えば、お前が、梓の貰った菓子を横取りしたんだろうが。今、伊東さんと大事な話をしてんだよ。」
伊東さん?
誰それ。
すると、隣にいた何とも言えない嫌な雰囲気の男の人が私をネットリした目で見ていた。
梓「あ・・・。」
何かこの人、嫌だ。
私は、土方さんの着物をギュッと握った。
すると、土方さんは、優しく私を抱きしめ、ポンポンと背中を軽く叩いた。
土方「梓、紹介する。伊東さん、こいつは、寺井 梓だ。一応、総司の小姓だ。で、この人は、伊東 甲子太郎さんだ。」
梓「伊東 甲子太郎さん・・・。初めまして。寺井 梓です。」
チラリと土方さんの向いの男の人を見ると、ニヤリと嫌な笑みを向けられた。
伊東「伊東 甲子太郎と申す。宜しく。」
梓「宜しくお願いします。」
挨拶が済むと、土方さんが、そっと私を離して、沖田先輩と目配せをした。
土方「もう出ていけ・・・。」
沖田「はーい。ほら、梓、行くよ?」
沖田先輩が、手を差し出す。
この手を取って大丈夫かな?
この部屋を出たら、殺されるかも・・・。
私は、頭の中で、沖田先輩に斬られる地獄絵図が浮かんでいた。
沖田「ほら!もう、何もしないからこっちおいで。」
嘘だ。
そう安心させてザクッと斬っちゃう気だ。
私が、土方さんの着物をギュッと握る。
沖田「はぁ・・・。何もしないからおいでよ。その代わり今からあの店に並んでもらうけど!早くして!売り切れる!」
すると、土方さんが優しく頭を撫ででくれた。
土方「行ってこい。後で、お前に渡したい物が・・・。」
沖田「ほら、行くよ!」
土方さんの言葉を遮り、沖田先輩は、私を文字通り引きずって行った。
梓「お、沖田先輩っ!私、まだ、立ってませんっ!」
すると、沖田先輩は、ピタッと止まり、しゃがんだ。
間近で見つめられる。
チュッ。
え?
キスされた・・・。
沖田「色んな意味でのお仕置き。」
艶やかな笑みの沖田先輩・・・。
何か、沖田先輩にドキドキする・・・。
それに、何故か、沖田先輩にこうやって触れられてもイヤじゃない。
それって、どういう事?
私は、沖田先輩と手を繋いで、お店に向かった。
前までの沖田先輩なら、一緒に並んでくれる事なんて無かったのに、最近は、お遣いの時は、いつも、沖田先輩と手を繋いで、買いに行く。
それを何故か、私は、嫌だと思っていなかった。