沖田総司と運命の駄犬
沖田「棚が、少し開いてる・・・。まさか・・・。」
ちょっと待って・・・。
いやな予感がする・・・。
僕は、梓から離れて、棚の戸を開けた。
沖田「あ・・・。」
僕の嫌な予感は的中し、棚の中はもぬけの空だった。
はぁ・・・。
やってくれたよね。
さしずめ、先ほど、近藤先生の菓子を僕が奪った仕返しといったところだろう。
ははっ・・・。
一緒に食べようとか、思った自分を呪いたいよ。
さぁ、梓・・・。
覚悟・・・出来たかな?
僕は、ニッコリ笑い、梓に近付いた。
梓「助けてっ!」
チッ。逃げたか・・・。
僕は、追いかけた。
沖田「梓っ!!この駄犬めっ!この僕の大事な物を奪うとは、命で償ってもらうっ!」
梓「はぁ・・・。はぁ・・・。はぁ・・・。たかがお菓子じゃないですかっ!」
あの菓子を“たかが”呼ばわりするなっ!
沖田「『たかが』だとぉぉぉ!あれは、そんじょそこらの菓子じゃない!どれだけ並んで、手に入れたと思ってる!!バカ梓っ!」
梓「確かに、美味しかったですけど!そこまで、怒ることないじゃないですか!私のお菓子だって、食べたくせにっ!」
沖田「うるさいっ!」
追いかけ回すと、梓は、土方さんの部屋に飛び込んだ。
梓「土方さんっ!助けてっ!」
梓は、土方さんに抱きついている。
その光景、見てて、ムカムカする。
土方「お前らなぁ・・・。ちったぁ、静かにしろよ。」
沖田「はぁ・・・。はぁ・・・。すいませんねぇ。梓を渡してもらえますか?」
土方さんも、梓の背中に腕を回し、二人は、抱き合っている。
梓「土方さん・・・。」
上目遣いで、梓は、土方さんを見つめてウルウルしている。
そんな目で、見つめたら、土方さんなんて梓の言いなりだ。
すると、土方さんは、僕に向かって言う。
土方「総司。もう止めておけ。元はと言えば、お前が、梓の貰った菓子を横取りしたんだろうが。今、伊東さんと大事な話をしてんだよ。」
はぁ・・・。ほらね?
面白くない。
土方さんが、梓と抱き合っているのを見るのは、面白くない。
胸のあたりが気持ち悪い。
土方「梓、紹介する。伊東さん、こいつは、寺井 梓だ。一応、総司の小姓だ。で、この人は、伊東 甲子太郎さんだ。」
梓「伊東 甲子太郎さん・・・。初めまして。寺井 梓です。」
伊東さんの梓の見る目が、何かを企んでいる。
伊東「伊東 甲子太郎と申す。宜しく。」
梓「宜しくお願いします。」
挨拶が済むと、土方さんが、そっと僕に目配せをした。
ハイハイ。
伊東さんに近付けるな。でしょ?言われなくても、わかってるよ。
土方「もう出ていけ・・・。」
沖田「はーい。ほら、梓、行くよ?」
僕は、梓に手を差し出す。
梓は、僕の手を取ったら、斬られると思ったのか、ジッと僕の手を見つめている。
沖田「ほら!もう、何もしないからこっちおいで。」
優しく言ったけど、梓は、土方さんに抱き付く腕を強めている。
沖田「はぁ・・・。何もしないからおいでよ。その代わり今からあの店に並んでもらうけど!早くして!売り切れる!」
すると、土方さんは、梓の頭を撫でた。
土方「行ってこい。後で、お前に渡したい物が・・・。」
また、貢ぎ物!僕は、土方さんの言葉を遮り、梓の首根っこを掴んだ。
沖田「ほら、行くよ!」
梓「お、沖田先輩っ!私、まだ、立ってませんっ!」
しばらく梓を引きずった後、ムカムカする気持ちが出てきた。
この気持ち・・・きっと、僕は、土方さんに嫉妬したんだ・・・。
梓が、迷いもせず、土方さんに助けを求めに行った事。
ギュッと抱きしめ合ってた事。
僕は、間近で梓を見つめる。
チュッ。
僕は、梓の唇に、自分の唇を重ねた。
梓は、固まって、僕を見てる。
ぷっ。何その呆けた顔。
沖田「色んな意味でのお仕置き。」
そう言うと、梓は真っ赤になった・・・。
僕は、梓を立たせて、手を繋いだ。
おなごの格好に着替えさせて、菓子屋に向かう。
梓って、僕と手を繋ぐのは、嫌じゃないみたいだ。
照れているし、可愛い所もあるんだ・・・。
僕は、梓の手を握り、店に連れて行った。