沖田総司と運命の駄犬
席に戻ると、里音が隣に来た。
里音「沖田先生、いらっしゃいませ。あのお方が、沖田先生の想い人ですか?」
沖田「まぁ・・・。でも、なかなか上手くいかない。」
里音「それでは・・・。彼女の気持ちを見てみましょうか?」
沖田「え?どういうこと?」
里音「私が今から、する事を、拒まないで下さいね?」
そう言うと、里音は、僕にしなだれかかり、僕の膝に手を置く。
沖田「ちょっ!」
里音「いつも、これ以上の事をしているじゃありませんか?梓さんの心を見るためです。沖田先生だって、見たいでしょ?」
沖田「それは、そうだけど・・・。ケホッ。」
里音「あら?お風邪ですか?」
沖田「うん。咳だけ残ってしまって・・・。君も風邪、まだ治ってないの?咳が出てるね?」
里音「えぇ。私もです。最近、こういう風邪が流行っているみたいですしね。早く、良くなると良いですね?」
沖田「そうだね。」
そんな話をしていると、梓が目の前に立った。
固まったまま動かない梓。
梓「っ!」
芸妓姿も可愛い。
あーあ。僕だけの前でさせたかったな・・・。
見とれていた事に気がつき、とっさに嫌みを言ってしまう。
沖田「本当に、馬子にも衣装ってこの事だね。里音とは、月とスッポンだよ。」
そう言うと、里音が、僕の膝の手をゆっくり動かしながら、梓に挨拶をした。
里音「はじめまして。いつも、沖田先生には、ご贔屓にして頂いております。私、天神の里音と申します。よろしゅうに。」
梓「はじめまして・・・。寺井 梓です・・・。ははっ!里音さん、ほ、本当に綺麗ですね・・・。本当に・・・っ。つ、月とスッポンとは、この事で・・・っ。・・・失礼しますっ!」
梓は、飛び出してしまった。
沖田「梓っ!」
僕は、立ち上がり、追いかけようとしたら、里音に、手を掴まれる。
沖田「追いかけないと!」
里音「行ってはなりませぬ!下の者に見に行かせます。」
沖田「でも!」
泣いてた気がする・・・。
すると、里音が、溜め息をついた。
里音「おなごの尻を追っかけている男など、見るに耐えれませんよ?」
沖田「っ・・・。」
確かに、そうだけど・・・。
そうだよね・・・。
僕は座り直した。
すると、里音が女中に声をかけた。
僕は、酒を注がれたたが、その後は、上の空だった。
女中「里音姉さん。先ほどの件ですが・・・。」
そう言うと、里音は女中と話をしていた。
里音が、戻ってきて、僕の隣に座り、先程の体勢になった。
そして、耳元で囁く。
里音「沖田先生。梓さんは、別室で疲れて、眠っているようです。」
沖田「そっか・・・。ありがとう・・・。」
しばらくすると、宴もお開きになった。
沖田「僕は、梓を連れて帰るよ。」
里音「今宵は、殆どの方々が、お泊まりになります。梓さんも寝ているのであれば、沖田先生も泊まっていってくださいまし。梓さんの気持ち教えて差し上げます。」
この時、僕は、里音を振り解けば良かったんだ・・・。
でも、この時の僕は、梓の事を知りたかったんだ・・・。
僕は、ついて行った。
いつもの里音の部屋。
ここに来たら、里音の誘惑に負けてしまうのをわかってて・・・。
でも、今宵の梓の芸妓姿が、頭から離れなかったんだ。
僕が、部屋に入り、布団の上に座る。
里音は、いつものように僕を押し倒した。
僕は、里音を抱き直して、首に、唇を這わした。
里音は、甘い声を出しながら、ギュッと僕を抱きしめる。
でも、その時、いつもと違うことが起こる。
里音と僕は、今まで、口付けを交わしたことはなかった。
体をいくら交わらせても、口付けだけは、何故か、里音は、拒んでいたのだ。
それなのに、今宵は、深い口付けを、何度も、何度も、交わした。
僕は、里音に、梓を重ねて、体に唇を這わせる。
『沖田先輩っ・・・。』
沖田「え?」
梓の僕を呼ぶ声が、聞こえたような気がした。
里音「沖田先生・・・。もっと・・・。」
沖田「う、うん。」
僕は、里音の体に触れようとした時・・・。
ガタッと小さな音と共に、聞こえた声・・・。
『沖田先輩っ!』
沖田「梓っ!」
里音「沖田先生っ!」
僕は、部屋を飛び出そうとした時、里音が叫ぶ。
里音「湯殿の用意をしておきます!」
何故、里音が、そんな事を言ったのかは、わからないが、今は、時がない。
嫌な予感がする。
僕は、部屋を飛び出して、あちこちの部屋を開けていく。
芸妓「キャァ!」
皆、まぐあいの最中。
沖田「すみません。」
僕は、次々、襖を開けていく。
部屋の場所を聞いておけば良かった・・・。
スパーーン。
襖を開けた瞬間、目に飛び込んで来たのは、梓にのしかかる伊東さんの姿・・・。
何やってんだよ。
やっぱり、嫌な予感は、当たった。
沖田「ねぇ、梓・・・。何やってんの?僕、言ったよね?他の奴に触れさせるなって・・・。」
梓「沖田先輩・・・。」
沖田「いつか、こうなると思ってたよ・・・。ったく、何度、こういう目に遭えば、わかるの?」
伊東「沖田君。邪魔しないでもらおうか?今、私達は、心を交わらせたところでね。これから、愛し合うんだ。」
梓「違っ!」
伊東さんが、梓と接吻した。
それを、見た瞬間、怒りで頭が真っ白になる。
触るな。
僕の梓に触るな・・・っ。
チャキ。
沖田「止めろ・・・。」
僕は、刀を抜き、迷い無く、伊東さんの首元に這わせた。
伊東さんの首に赤い線が引かれた。
伊東「やっぱり、君は、梓に惚れてたか・・・。」
僕は、刀を持つ手に力を入れた。
沖田「そんな事、今は、どうでも良いんですよ・・・。さっさと、退かないと、この部屋が、血に染まりますよ?」
今なら、躊躇無く伊東さんの事を斬れる。
それがわかったのか、伊東さんは、ゆっくりと梓の上から退いた。
僕は、強引に梓の手を引いた。
梓「お、沖田先輩っ!腕!抜けるっ!」
僕は、梓が痛がっている声すら聞こえなかった。
それにしても、梓から、伊東さんが付けている臭い香の匂いが漂っている。
その匂いが、香ってくるだけで、腹の底から、気分が悪い。
そういえば、里音が、湯殿用意してるって言ってたな・・・。
僕は湯殿まで来ると、梓を投げ入れた。
沖田「湯浴みしてきて!」
梓「え?」
沖田「だから、湯浴みして、伊東さんが触れた所、100回は洗ってきて!あと、その伊東さんの臭いも消して来てよ!臭過ぎる!」
梓「あの・・・。」
沖田「聞こえなかった?早くしてっ!」
梓「はいっ!」
梓が、湯浴みしている間、僕は、壁にもたれズルズルと座り込んだ。
沖田「はぁ・・・。」
僕は、何やってるんだろう。
もしかしたら、僕は、二人の邪魔をしたかもしれない・・・。
でも、どうして、里音は、湯浴みが必要だと知ってたんだろう。
僕は、里音の部屋に行く。