沖田総司と運命の駄犬
僕は、梓が、居るであろう自室に戻る。
その足取りは、重たく、鉄の足枷を着けているようだ。
僕は、部屋の前で、息を一つ吐いた。
ここで、僕が、鬼にならないと、梓は、一人、路頭に迷う。
僕がここで、鬼にならないと・・・。
僕は、襖を開けた。
梓「あ・・・。沖田先輩。お帰りなさい!あの甘味屋さん、物凄く並んでいたんですよっ!でもね!ギリギリで買えたんですよっ!ほら見て下さいっ!」
何かを察したのか、梓は、妙に明るく言った。
沖田「・・・。」
僕が、黙っていると梓は、その沈黙に耐えきれず、また、明るく話す。
梓「お・・・沖田先輩?どうしたんですかぁ?黙りこくっちゃって!沖田先輩らしくない!」
沖田「・・・ょうだい?」
梓「え?」
僕は、顔を上げた。
鬼になれ。
梓「っ!」
梓は、僕の顔を見ると、顔を歪めた。
沖田「ちょこ、ちょうだい?」
僕は、梓と出会った頃の“約束”を持ち出した。
梓「へ?チョコ?」
沖田「うん。毎日、くれてたでしょ?最近、貰ってないから。甘い物が欲しいんだ。」
池田屋事件の時から、ちょこを貰っていない。
もう、無いことはわかっていた。
それでも、何も言わなかったのは、僕が、梓と一緒に居たかったからだ。
梓は、声を震わせて言う。
梓「も・・もうありません。あ、甘いものなら、今日、買ってきた・・・。」
沖田「それじゃあ、僕の梓の世話役は終わりだね。」
梓「え?どういう・・・。」
沖田「最初に言ったでしょ?ちょこがある間は、面倒見るって・・・。無いなら、もう、僕は、お役御免だ・・・。あ~っ!やっと、終わった!長かった!だから、荷物纏めて、この部屋、出て行って?」
梓「確かにそうですけど・・・でも・・だって・・・沖田先輩、私の事、好きって言ってくれたじゃないですか!!」
沖田「そうだね。それは、ちょこが食べたかったから。あぁ、梓は、すぐ、信じるから、騙しやすかったよ?」
僕は、梓が傷つく言葉を選んで言った。
本当は、愛おしくて愛おしくて仕方ない目の前のこの娘に。
梓「じゃ、私とどうしてエッチしたんですか!!」
えって多分、まぐあいの事だろう。
沖田「金が無かったから。タダで、抱けるなら、洗濯板でも目を瞑るしかないよね。金があったら、里音を抱いてたよ。」
それを言った瞬間、梓の目から涙が零れた。
梓「っ!ひ・・っ。酷いっ・・・っ。最っ低っ!!」
僕は、梓の涙を拭おうとした手を引っ込めた。
梓は、買ってきた、甘味の包みを僕に投げつけて、部屋から出て行った。